【教養】400年続く「美のインフラ」茶の湯を支える最強の職人集団『千家十職』の凄み

コラム


​茶道の世界において、主役は「茶」であり、それを点てる「亭主」である。
しかし、その舞台を支えているのは誰か。
​茶碗、釜、棚、杓(しゃく)、屏風……。
茶室という小宇宙を構成する道具の一つひとつに、数百年もの間、命を吹き込み続けてきた職人たちがいる。
​それが「千家十職(せんけじっしゃく)」だ。
​今回は、千利休の時代から現代に至るまで、茶の湯の美意識を裏方として支え続ける、この伝説的な職人集団に光をあてたい。


​1. 選ばれし10の家系
​千家十職とは、茶道三千家(表千家・裏千家・武者小路千家)の好みの道具を作ることを特権的に任された、10の職人家系の総称である。
​そのラインナップを見るだけで、茶道がいかに多様な「工芸」の集合体であるかが分かる。
​茶碗師:樂 吉左衞門(らく きちざえもん) …… 手捏ねの温かみある「樂茶碗」を作る。
​釜師:大西 清右衛門(おおにし せいえもん) …… 茶室の主とも言える「釜」を作る。
​塗師:中村 宗哲(なかむら そうてつ) …… 漆塗りの器や家具を手がける。
​指物師:駒沢 利斎(こまざわ りさい) …… 木工細工(棚など)を作る。
​金物師:中川 浄益(なかがわ じょうえき) …… 金属製の建水や薬缶を作る。
​袋師:土田 友湖(つちだ ゆうこ) …… 仕覆(茶入を入れる袋)などの布製品を作る。
​表具師:奥村 吉兵衛(おくむら きちべえ) …… 掛け軸や風炉先屏風を仕立てる。
​一閑張細工師:飛来 一閑(ひき いっかん) …… 和紙に漆を塗る一閑張を作る。
​竹細工・柄杓師:黒田 正玄(くろだ しょうげん) …… 竹製の柄杓や花入を作る。
​土風炉・焼物師:永樂 善五郎(えいらく ぜんごろう) …… 京焼の華やかな茶陶を作る。
​彼らはそれぞれの分野の頂点でありながら、決して「自分の作品だ!」と主張しすぎることはない。あくまで「お茶が主役」という美学を貫いている。


​2. 「阿吽(あうん)の呼吸」が生む美
​千家十職の凄さは、単に技術が高いことだけではない。
家元(茶人)との「共創関係」にある。
​家元が「今度の茶会では、こんな趣向で客をもてなしたい」と考えたとき、その抽象的なイメージを具体的な「モノ」として具現化するのが彼らの仕事だ。
そこには、400年かけて培われた「阿吽の呼吸」がある。
​言葉にしなくても伝わる美意識。
「利休ならこうするだろう」「今の時代ならこうアレンジすべきだ」。
過去の伝統を守りつつ、常に新しい風を取り入れるその姿勢は、伝統工芸というよりも、最先端のクリエイティブに近い。


​3. 現代に生きる「職人魂」
​AIや機械化が進む現代において、彼らの仕事は「非効率」の極みかもしれない。
土を捏ね、鉄を打ち、漆を塗り重ねる。すべてが手作業だ。
​しかし、だからこそ彼らの作る道具には「時間」と「魂」が宿る。
100年、200年と使い続けられ、壊れれば修理してまた使う。
そのサイクルの中心に彼らがいる。
​「千家十職」を知ることは、日本のものづくりの深淵を覗くことだ。
もし美術館や茶会で彼らの名前を見かけたら、ぜひその向こう側にいる、400年分の職人たちの息遣いを感じてみてほしい。

筆者;灯屋新聞編集部 橋野しおり

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