マチュピチュ ――天空の書庫に触れる日

週末連載

静寂の中、かすかに響く紙の擦れる音が、図書館列車の車輪の響きへと変わっていく。一枚のしおりが導く次のページは、アンデス山脈の奥深く。雲の切れ間から覗く、標高2,400メートル超の空中都市、マチュピチュだ。

想像力の燃料を燃やして進む列車から降り立つと、肺を満たす空気がほんの少し薄く、そしてひんやりと冷たく感じられた。目の前に広がるのは、誰かが忘れていった巨大なパズルのような石造りの街。段々畑の鮮やかな緑と、その背後にそびえるワイナピチュ峰が、朝霧のベールをまとって静かに呼吸している。

足元を吹き抜ける風には、乾いた草の香りと、遠くの氷河から運ばれてきたような凛とした匂いが混ざっていた。地図の上の知識ではなく、言葉が紡ぎ出す確かな実感。私はゆっくりと歩みを進め、インカの人々が築き上げた滑らかな城壁の前に立った。

カミソリの刃一枚すら通さないと言われる精巧な石組み。何百年もの間、風雨に耐え、雲海を見下ろしてきたその一つに、そっと手のひらをあてる。

石に手を置いた瞬間、世界が低く唸った気がした。

それは、石そのものが放つ微かな振動だったのか、それともかつてここで太陽に祈り、星を読んだ人々の記憶の反響だったのか。指先から伝わる石の冷たさの奥底に、途方もない歴史の重みと確かな熱を感じる。ここは単なる遺跡ではない。膨大な時間が、祈りが、そして人間の営みが緻密に記された「天空の書庫」なのだ。

雲が流れ、一筋の光がインカの石畳を黄金色に染め上げる。その圧倒的な静寂と美しさを心のノートにしっかりと書き留め、私は再び自分の座席へと戻った 

筆者;灯屋新聞編集部 橋野しおり

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